ついにiPhoneが発売されましたね。
iPhoneが取り沙汰されるようになり、ついでという感じでAndroidとiPhoneが比較されることが多いですが、実際は性質がまったく異なるものです。
それぞれ土俵がまったく違うのですが、ユーザーの視点から見るとほとんど違いがないために、その点がいまいち理解されにくいようです。
iPhoneが颯爽と現れたヒーローだとすれば、Androidはさしずめ次々沸いてくるアンドロ軍団(例えが古過ぎ)といったところでしょうか。
それではキャリア、メーカー、開発者、ユーザーの4つの観点から、AndroidとiPhoneの違いを詳しく見ていきましょう。
キャリアにとって
iPhoneはキャリアにとっては顧客を増やす救世主のように思えるかもしれませんが、
実際はそれほど簡単な話ではありません。
iPhoneの販売台数が伸びれば伸びるほどキャリアの懐に食い込んで、キャリア自身が手放すことができなくなり、うまく共生しないとAppleの手の平で踊らされることになるでしょう。
iPhoneを採用したキャリアはしばらくは栄えるかもしれませんが、キャリア自身にとってのよい未来は見えてきません。
Androidはどうでしょうか。
iPhoneに比べるとAndroidは一般的にはいまいちぱっとしません。
しかし現時点でDoCoMoとAUがAndroidを推進する団体のOHA(Open Handset Alliance)に入っています。
何の戦略もなしにOHAに加入しているとは思えないので、Androidに将来性を感じているのは間違いないと思います。
キャリアにとってのAndroidの魅力とは何なのでしょう。
まず、Androidを利用するに当たってお金は要りません。
しかもGoogleが開発しているため、品質が非常に高いです。
キャリア主導で開発されたプラットフォームとは一線を画する出来栄えです。
これを無料で利用できるのですから、キャリアにとっては特別な事情がない限り、使わない理由はないといってもいいでしょう。
また、無料で公開されるため、ひとつのメーカーに独占されることなく色々なメーカーが出すことが可能です。
DoCoMoは実はiPhoneを欲しがっているように見せかけて、裏で着々とAndroidの準備を進めているのかもしれません。
iPhoneを導入してしまうとAppleに振り回されることになるため、それを嫌っているということも考えられます。
Android、iPhoneのどちらを選ぶにしろ、キャリアは単なるネットワークのプロバイダになることを受け入れる覚悟が必要です。
i-modeは近いうちに消え去る運命でしょう。DoCoMoもいつまでもi-modeにしがみついていては時代に取り残されることがわかったために夏野氏が退陣したのではないかと邪推してしまいます。
iPhoneを出すよりはAndroidの方がキャリアが主導権を握っておきやすいといったところでしょうか。
しかし、Android創設者のアンディ・ルービンさんも
ルービン:Androidの可能性は携帯電話だけではない。超小型PC、PDA、カーナビ、そのほか多様な可能性がある。当然、このような開発が今後あるだろう。まずは1stプロダクトの携帯電話を出して、その先にある未開拓の世界だと思っている。
Androidは雇い主の分身として仕事をするエージェントより
と言っているように、Androidの潜在能力は携帯電話だけにとどまりません。
携帯電話の枠を飛び出した時に、Androidの重要性が再認識されることになるでしょう。
メーカーにとって
言わずもがな、iPhoneはAppleとAppleの下請け以外のメーカーにとって何もいいことはありません。
現時点でAppleに勝てる商品の品質、魅力、ブランド力を打ち出せるメーカーはNokiaくらいしかないのではないでしょうか。(日本ではあまり成功しているとは言い難いですが。)
Appleがインフラを整備したコンテンツ販売によって、アプリメーカーにとってはビジネスのチャンスが広がるかもしれませんが、イノベーションを起こすことはないでしょう。
イノベーションが起こるとしてもAppleが作った箱庭の中だけです。
しかもAppleがiPhoneの販売戦略に失敗したらおしまいです。
NDAが厳しくてiPhoneでの販売は面倒だという話も聞きます。
Androidの場合はどうでしょう。
最初の端末が発売されてからは、Androidを使用したモバイル端末を出すに当たって特に許可は要らないようです。
しかも(最初の端末発売後は)ソースコードが公開されているため、自由に改変可能です。
メーカーは着々とAndroidを採用したモバイル端末を計画しているものと思われます。
事実、世界中の大手メーカーがアンディ・ルービンさんに会うためにいまだに行列を作っているようです。
水面下で色々な端末の開発が進んでいるのは間違いないでしょう。
Androidはまだ端末が発売されていないから実感がわかないという意見を良く聞きますが、
よくわからない今こそがチャンスです。
Androidの未開のフロンティアに一番乗りして旗を立てれば、そこが自分の陣地になる可能性は極めて高く、
何故みんなこのチャンスに乗ってこないのか不思議なくらいです
大手メーカーは動きづらいかもしれませんが、中小企業にとっては下克上ができる大チャンスなのです。
開発者にとって
iPhoneのSDKを使ったことがないので偉そうな事は書けませんが、iPhone自体を動かしているソースコードは闇の中です。
Appleが用意した箱庭の中で争うのもいいですが、所詮は箱庭なのです。
限られた箱庭の中で市場を奪い合い、一部の強者だけが残ることになってしまうのではないでしょうか。
今後どうなるかはわかりませんが、フリーウェアを配布するにはアプリ開発にかかる費用が高すぎます。
正直、日曜プログラミングのために年間の登録費用を払う気にはなれません。
アプリ販売で商売をしようにも、Appleに売り上げの30%を持っていかれてしまいます。
儲かれば儲かるほどこの30%が効いてきて、iPhone以外で同じようなアプリを出したほうが儲かることに気がつくかもしれません。(すでにiPhone向けのメディアプレーヤソフトのTunewikiはAndroidにも移植されています。)
唯一残るのはAppleのブランドです。
流石はデザインと使い勝手にこだわるAppleだけに、UIのカッコよさは天下一品です。
しかし、開発者はそのカッコよさにぶら下がることしか出来ません。
しかもiPhone自体を作ることは出来ず、iPhoneのアクセサリしか作れないのです。
Appleは当然iPhone自体の作り方を教えてくれません。
Androidはどうでしょうか。
Androidが提供するのはAndroidではありません。
AndroidはAndroid自体の作り方と道具を提供してくれます。
大げさに言えば、宇宙人からのオーバーテクノロジーな贈り物に、
詳細な使い方と設計図がついてくるようなものです。
開発に使用するエミュレータもかなりの高品質です。
エミュレータが遅い遅いという声をよく聞きますが、私が今まで見てきた組み込みの開発現場で使っていたエミュレータで、これほど高速で動作するものは見たことがありませんでした。
しかも、実機で動くバイナリコードをそのまま使ってPC上でデバッグできるような環境など、望むべくもありませんでした。
Androidの登場によって、モバイルデバイスに限らず、組み込み業界の技術レベルが世界的に数ランク底上げされるのは間違いありません。
ギークたちはこぞって技術を吸収し、さらに技術レベルを高める為の苗床になっていくでしょう。
Androidの苗床から無数のプロダクトが生み出されていくのが目に見えるようです。
もしかしたらワクワクしているのは自分のまわりだけなのかもしれませんが、開発者にとってのワクワク度はAndroidに軍配が上がると思っています。
ユーザーにとって
ユーザーにとって、iPhoneとその他の携帯電話は何が違うのでしょうか。
まずは前面タッチパネルでスタイリッシュなデザインが目を惹きます。
iPodと同じように簡単に音楽を持ち歩くことができるという点でもユーザーにメリットがあるでしょう。
PCを所持している人しか音楽を持ち歩けないという敷居の高さもありますが、すでに日本の携帯電話で音楽を持ち歩いている人も、PCのソフトを使用して端末に音楽を移しているため、そのあたりには障害は感じられません。
そして大きなウリのひとつのインターネットのブラウジングの快適さでしょう。
慣性が利いたようなスクロールは病み付きになります。しかし、これは他のブラウザにも続々とマネをされてアドバンテージではなくなってきている感が無きにしも非ずです。
タッチパネル操作を前提として練り込まれたUIが日本のユーザーを魅了できるかどうかはわかりません。
先日実際にiPhoneを触って日本語入力を試しましたが、日本の携帯電話の文字入力に慣れているユーザーを取り込むのは難しいなと感じました。
また、携帯電話にしては少し重くて大きく、使用中の熱も気になりました。
実は少しiPhoneを欲しいと思っていたのですが、実際に触ってみて購入意欲がまったく無くなってしまいました。
Androidはどうでしょうか。
検索数の少なさから見ても、一般の人のAndroidの認知度は物凄く低いです。
まだ出来上がったものが販売されていない為にメディアへの露出も少ないです。
完成前のデモ品は数多く披露されていますが、日本のテレビなどで取りあげられたことはほとんどないのではないでしょうか。
ユーザーにAndroidが何かを説明するのは非常に難しいです。
Androidが爆発的に売れる為には、その答えを出さなければいけないのは間違いないと思います。
キャズムを超えらるのはどっち?
iPhoneもAndroidもユーザーに受け入れられ、爆発的に普及する可能性を秘めていると思います。
iPhoneが一般的なものとして受け入れられるかどうかは正直あやしいと思っています。
しかし、Androidがキャズムを超えるのは間違いないでしょう。
なんといってもアンドロ軍団ですから、倒れても倒れても進化したAndroidが次々に登場して、いつかは必ず一般ユーザーに当たり前に受け入れられる日が来るでしょう。
その時は既にAndroidという名前ではなくなっているかもしれませんが、Androidから生まれた何かであるのは間違いないと思います。
Androidはモバイル端末にとどまらず、組み込み業界の技術を底上げし、イノベーションを起こすでしょう。
その歴史の1ページの片隅に名前を刻みたいと思っています。